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下を向いて歩こう!? 路上のアート「マンホール蓋」観察のすすめ 画像

ライター:松田 亜希子 さん 体験・観光 コラム

下を向いて歩こう!? 路上のアート「マンホール蓋」観察のすすめ


道路に点在するマンホール。その蓋(ふた)が近年、注目を集めています。これまで見過ごされてきた意外な芸術性や歴史的価値が見直されているのです。練馬区が今夏、新たに設置したデザインマンホール蓋も話題の的。そこで、路上観察の達人として知られる練馬区在住エッセイストの林丈二さんに、マンホール蓋の面白がり方を伺いました。

“アニメのまち練馬”ならではのマンホール蓋登場!

“アニメのまち練馬”ならではのマンホール蓋登場! 画像

▲メーテル「銀河鉄道999」ⓒ松本零士・東映アニメーション


 

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▲ラム「うる星やつら」ⓒ高橋留美子/小学館


 

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▲矢吹丈「あしたのジョー」ⓒ高森朝雄・ちばてつや/講談社


まずは大泉学園駅北口~妙延寺に向かう通りにかけて設置された新マンホール蓋をご紹介。デザインは3種類。世代を超えて愛され続ける、練馬区ゆかりのアニメキャラクターが勢ぞろいしました。詳しい設置場所はこちらをご確認ください。


https://www.city.nerima.tokyo.jp/kankomoyoshi/kankojoho/designmanhole.html


 


 


 

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▲矢吹丈「あしたのジョー」ⓒ高森朝雄・ちばてつや/講談社


デザインの由来を解説するマンホールカードを順次無料配布しています。第1弾の矢吹丈「あしたのジョー」は、ねりま観光案内所(練馬駅中央北口すぐのCoconeri3階)でGETできますよ。第2弾のメーテル「銀河鉄道999」は、11月5日から石神井観光案内所(石神井公園駅中央口すぐ)で配布開始。マンホールカードをコレクションするのも楽しいですよね。
※各カードの配布場所はそれぞれ決まっています。お間違えのないようご注意ください。


矢吹 丈(あしたのジョー)https://www.nerimakanko.jp/news/detail.php?notice_id=N000000124


メーテル(銀河鉄道999)https://www.nerimakanko.jp/news/detail.php?notice_id=N000000134


 


 


 


 

路上観察ブームの仕掛け人

路上観察ブームの仕掛け人 画像

▲豊島園に長くお住まいの林丈二さん


今回、練馬区にご当地マンホール蓋が誕生したのを記念し、ぜひお話を伺いたいとお会いしたのは、エッセイストの林丈二さん。


前衛美術家の故赤瀬川原平さんやイラストレーターの南伸坊さんらとともに「路上観察学会」を結成。あちこちの町を歩いて偶然見つけた面白いものを撮影して発表する活動を繰り広げ、路上観察ブームを巻き起こした方です。


これまでに路上観察本を多数出版。古絵葉書の蒐集や明治時代の新聞記事蒐集でも知られ、最近はFacebookで情報を発信中。唯一無二のマニアックな観察眼で、コアなファンを増やし続けています。

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▲誰もが認めるマンホール蓋観察のパイオニア


「人がやっていないことをやる」「常識にとらわれず、自分なりの視点を持つ」。これは林さんの一貫した信条です。路上観察でも、目立つものや価値づけられているものには興味を示しません。


「目立たないけれど、人知れず“小さな光”を放っているものを偶然見つけて『おっ』と面白がるのが好き。 “小さな光”に出合いたくて、今も毎日町を歩いています」。普通は見過ごすような町の細部に面白さを見出すのが、林さん流なのです。


 

マンホール蓋の魅力を世に広める

マンホール蓋の魅力を世に広める 画像

▲初著書「マンホールのふた<日本篇>」(サイエンティスト社)。<ヨーロッパ篇>もある


林さんがマンホール蓋に魅せられたのは美術大学の学生時代。家の近所の道路にはまっていた戦前の蓋にふと目を止め、その味わい深いデザインに気付いたのです。まだマンホール蓋に注目する人などいなかった半世紀も前のことです。


路上で見つけた面白物件を手帳にスケッチするなど、もともと記録マニアだった林さん。劣化すると新しいものに取り換えられてしまう古いマンホール蓋を記録しておかなくては!という想いから、十数年にわたって全国を歩き、膨大なマンホール蓋を撮影・調査。その成果をまとめたのが、1984年(昭和59年)に出版した「マンホールのふた<日本篇>」(サイエンティスト社)です。


 

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▲いまだ版を重ねている隠れたロングセラー。Amazonなどでも購入できる


近年増えているマンホール蓋愛好家、通称マンホーラーの中にも、この本をバイブルとして挙げる人が少なくありません。各地の蓋を撮影し、SNSなどで共有する彼らに聞くと、パイオニアである林さんは、神のような存在なのだそうです。


 


 

デザインには滑り止めの役割がある

デザインには滑り止めの役割がある 画像

▲林さんのお気に入り蓋その1:謎の図形が複雑に組み合わされた「アバンギャルドな蓋」


そもそもマンホールとは、地下に埋設された下水道や通信ケーブルなどの点検口。man(人)+hole(穴)という名の通り、作業員が出入りするため、地中にあけられた穴のことです。


そして蓋の用途はといえば、もちろん穴をぴったりふさいで、通行人などが落下しないようにすること。表面に凹凸をつけるのは、車などが滑らないようにするためです。デザインには、実は滑り止めという役割があったのですね。ちなみに蓋の素材は、ほとんどが耐久性に優れた鋳鉄です。


 

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▲林さんのお気に入り蓋その2:走る人と犬が凹凸に組み合わされた「パズル蓋」


「複数のものを少し複雑に抽象化して描いたマンホール蓋が好きですね。そういうデザインって、単純な絵よりも洒落てると思うんです」と林さん。


本来は滑り止めのための凹凸ですから、絵柄を細かくすることは摩擦係数を上げることになります。「滑り止め効果も考えて、デザイナーが丁寧にデザインしたんだなと思われる蓋には昔から惹かれます」。マンホール蓋は“機能美”が大切というわけです。


では林さんが練馬区で見つけたマンホール蓋BEST5を見せていただきましょう。

練馬区で見つけたマンホール蓋5選

練馬区で見つけたマンホール蓋5選 画像

▲田柄の住宅街で撮影


こちらは都営アパート付近でよく見られる「お天気マーク蓋」。太陽、星、月、雲、雨、雪ダルマ、雪の結晶が図案化されています。可愛い!


 


 


 

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▲練馬図書館の敷地内で撮影


練馬図書館の敷地内に数枚ある「雷神蓋」。雷神さまのおなかには「電」の文字。おそらく電気関係のマンホールだと思われます。「練馬区内のデザイン蓋としては最古の部類」と林さん。


 


 


 

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▲中村橋近くの千川通りで撮影


暗渠化されて地中を流れている旧千川上水の上の道路に2枚ある「千川上水蓋」。イチョウ、メダカ、ソメイヨシノがにぎやかに描かれた真ん中に、千・川・上・水の文字をデザイン化したマークが入っています。


 


 


 

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▲環状八号線の練馬北町陸橋交差点付近で撮影


鉄筋コンクリート製の「東京府蓋」。真ん中のマークは1931年(昭和6年)から1943年(昭和18年)まで使用された東京府章。「東京府は昭和18年に東京都になったので、これは間違いなく戦前に設置された蓋です」と林さん。


 

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▲光が丘パークタウンで撮影


デザインはシンプルですが、「東京熱供給」の文字に注目。林さんいわく「あまり他の地域にはない、珍しい熱供給施設の管理蓋です」。東京熱供給は、光が丘清掃工場の発電後の排熱を利用して、光が丘パークタウンの団地へ暖房と給湯を供給しているそうです。


 


 

蓋の細部にも目を凝らしてみる

蓋の細部にも目を凝らしてみる 画像

▲ガス抜きの穴に苔


 


 


 

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▲鍵穴の“ミニ庭園”


 


 


 


 


 


 

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▲落ち葉がホールインワン


 


 


 


 


 


 

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▲子どもの落書き


こんな偶然の出合いこそ、路上観察の醍醐味です。


普段はあまり気に留めることがないマンホール蓋。こんなにも多彩なデザインがあることをご存じでしたか。蓋の魅力に気付くと、なんだか町を歩くのが楽しみになりますよね。林さんが見つけたもの以外にも、練馬区にはまだまだ味わい深い蓋があるかもしれません。ぜひ探しに出かけてみませんか。


フリー編集者&ライター 松田亜希子(Akiko Matsuda)