特集記事 Reviews

#109ベーカリーマザーグース 代表取締役
萩原ひとみさん

大八車の営業から始まった
創業から一世紀の老舗パン屋!


「1916年(大正5年)の創業時は、パンはまだハイカラすぎて、誰も知らないし買ってくれなかったので、祖父は大八車で売り歩いたと聞いています」

 江古田の老舗パン・マザーグースが創業した当時のエピソードを語るのは、創業者の孫である3代目の萩原ひとみさん。当時の店名は「萩原パン」で、創業地は巣鴨でした。

 江古田に店を構えたのは、戦後すぐの1947年(昭和22年)。練馬区内の小・中学校30校以上の学校給食を担当するなど、1日4万食のパンを製造し、お店は大繁盛! 練馬生まれの読者は、実はマザーグースのパンで育っていたかも…!?

「祖父は器用な人で、そばでも和菓子でも、粉物なら美味しく作れる人でした。2代目の父は、池袋サンシャインシティにベーカリーレストランを出したり、営業力のある人でしたね」

 楽しそうに昔を語るひとみさんですが、お店を継ぐまでには紆余曲折がありました。ひとり娘として可愛がられた少女時代は…。

「いつも家に親がいないので、子ども心に寂しかった。でも、お店に行けば親に会える。そこでお客さんの笑顔を見ているうちに、『食べ物は人を幸せにする』とどこかで感じていたんでしょうね」

 でも意外や意外、パンの仕事をするつもりはなかったそう。まず銀行員になり、サービス業がやりたくなって東洋大学のホテル観光学科を卒業し、池袋のホテルメトロポリタンへ3年半就職。出産を機に保険会社へ移り、10年務めました。

「パンの学校にも通いましたよ。父に、『1日行けばいいから』って騙されて半年(笑)」

 そこでようやく、「せっかくやってきたお店を継ぎたい」という思いが芽生え、今にいたります。でも、それまでの経験は無駄ではありませんでした。銀行で学んだお金のこと、ホテルで学んだサービスのこと、保険会社で学んだ営業のこと…、すべてが今の経営に活かされています。



パンへの情熱は膨らむばかり
人も街も明るく元気にしたい!


「1980年代ころからパンブーム到来!? 江古田にも随分パン屋さんができました。今はハード系のパンも人気ですが、うちは昔から親しまれているシンプルでやわらかいパンが多く、赤ちゃんからお年寄りまで食べやすいのが特長です」

 区内の保育園に卸しているアレルギー対応パンは、卵と乳製品を一切使わないそう。一方、店頭には80〜100種類のバラエティ豊かなパンが並びます。その味を守っているのは40〜70代の職人で、20年〜30年のベテラン揃いです!

「パン作りは夜中の2時から交代制で始まります。仕込む人、発酵させる人、そして焼く人と分担します。パンは不思議なもので、昔からの職人にしか作れない『ひとつまみ』の感覚があるんです。それがなかなか真似できない。うちの甘食、玄米パン、黒糖蒸しパンを作れるのは、もう1人しかいません」

 ひとみさんが心血を注ぐのは自店のことに留まりません。「人も街も明るく元気にしたい!」という思いから、商店街や練馬区商店街連合会の活動にも積極的に取り組んでいます。「まちゼミねりま」というイベントでは、西武線の各駅のラックにチラシを置いてもらいたいと発案し、自ら交渉をしに行くという行動力!

 アクティブなひとみさんは、お店の100周年に向けての熱意もたっぷり!

「これからもパンへの研究や情熱を深く高く持ち、パン生地を最大限にいかしたアイデアを、どんどん出していきたいです!」

 昔ながらのパンも、これから生み出される新しいパンも、どちらも私たちを幸せにしてくれそうです。

(2015年11月2日)

お店は江古田の シンボルのような存在!

ベストミートハヤシとの コラボパン江古田メンチ(左) 伝統あるドイツ菓子の シュトーレン(右) (写真提供:マザーグース)

多いときで100種類のパンが 店頭にずらりと並びます!

創業者の賢一さん(写真右)。 人望があり、区議会議員も 務めました (写真提供:マザーグース)

父親の栄一さんは10年間、 池袋サンシャインシティに ベーカリーレストランも出店。 当時は珍しいパンのバイキング (写真提供:マザーグース)

1983年、マザーグースに改名。 谷川俊太郎さんの訳した イギリスの伝承童謡に 影響されたネーミングです

もはや家族同然の職人さんたち

「まちゼミねりま」の様子。 パンを一緒に作る講座は 毎回大好評です!

焼き立てのパンのように ふんわりやさしく あたたかな人柄のひとみさん!

プロフィール

萩原ひとみさん

萩原ひとみさん

はぎわら ひとみ 1960年、江古田で生まれ育つ。1916年、萩原パン(マザーグースの前身)を創業した賢一さんを祖父、2代目の栄一さんを父に持つ、3代目社長。銀行、ホテル、保険業を経て、30代から父親と一緒に店に立つ。現在は学校、病院、介護施設、役所などにサンドイッチやオードブルも納品し、区内の保育園には食パンやクロワッサン、アレルギー対応パンなども卸している。最近では商店街活動にも積極的に取り組み、栄町本通り商店街振興組合の理事、練馬商人会メンバーとして奔走。商店主が講師となるミニ講座「まちゼミねりま」にも初回より参加している。子どもは2人。練馬で好きな場所は、商店街の街並み。歩くこと、そして食べることが大好き。休日にはよく、「文化の箱」=デパートの食品売り場を見てまわり、パン作りのヒントに活かすこともあるそう。

マザーグース
練馬区栄町29-2
電話 03-3994-2121

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