特集記事 Reviews

#084 東京友禅作家
生駒  暉夫さん

変わった作風も自分の持ち味


この道40年、飽きることはない



 京都、加賀に並ぶ三大友禅の一つ、東京友禅。都会的な柄やシックな同系色が特長です。また、分業制が多い京都、加賀に対し、東京は一人の職人が全工程に関わるので個性がよく現れます。そんな職人の一人が、生駒暉夫さんです。

「京都や加賀は伝統が長く、地場産業として行政にも守られています。東京はそれがないぶん、自由。だけど常に、何が求められているのか考え、絶えず新しいものを発信していかなければならない。今はお客様の審美眼も鋭いですからね」

「仕事がとにかく好きだし、プロとして第一線を走り続けたいので、自然とアンテナを立てて歩いてます。昔の思い出からイメージがわくこともあるので、自分の中にも釣り糸をたらしてますね」

 そう語る生駒さんの作風は、とても斬新! 虫がオーケストラの演奏をしていたり、オシャレなバーでお酒を呑んでいたり…着物の概念を覆されます。

「ここまで変わった柄を作るのは、私くらいじゃないかな(笑)。褒められると調子にのって、もっと面白いものを作って驚かせたくなるんです」

「私の場合、美術工芸品と、実際に着る商品を分けて考えてます。工芸品では、着物全体をキャンバスに見立てて、自分の主張を表現します。商品としては、“用の美”として着た時にいかに美しいかという視点で、色や柄を考えていきます。着物も現代のファッションですから」

 プロの矜持が光ります。その姿勢を支えるのは、確かな技術です。

「ムラサキツユクサの絞り汁で描く下絵、モチ米の糊で覆って柄が染まらないようにする糸目や糊伏せなど、20工程くらいあります。地染めのときは、部屋いっぱいに布地を張って、大きな刷毛で染めていくんですよ」

「それらを学んだのは、会社のデザイン部で先輩から教えられたものですが、そこだけでは技術的な幅がなかったので、仕事の後や休日にいろいろな工房の先生を訪ね指導を受けました。将来作家を目指していたので、必死に走っていました」

 基礎がないからと、美術学校の夜間部にも通学。働きながら授業料を払って受ける授業は、真剣味が違ったと言います。

 そのなかで生駒さんは、12年修業し、独立を果たしました。それからは目標だった作家活動に入り、今年でこの道一筋42年となりました。



弟子を育てていくうちに
自分も背伸びして成長する


 親方の柄や古典・伝統柄の模写から始まり、自分の作風が出てくるまでには相当の年月がかかるという世界。「生駒さんの作品はすぐわかる」と言われるようになったのは、独立からさらに10年後のことでした。そうなってやっと一人前というから、厳しい道のりです。

 今では後進を育てることにも力を注いでいます。現在は、20代の美大卒の弟子が3人。これまでに7人を独立させました。

「弟子がいると、自分も親方として必死でカッコつけようとする。展覧会に出したら、落選できない。いつまでも同じことをして成長しなかったら、ガッカリされてしまう。私も弟子から見られてるんですよ。そうやって背伸びしてるうちに、背が伸びていくのではないかと(笑)」

「もちろん弟子が失敗したら怒りますよ。人間、怒られないと成長しませんから。中途半端な商品を作れば売れない。作った作品は反響がなければ意味がない。絶えず結果を出さなければならない。プロに逃げ道はないんです。だから厳しくしてますね」

 覚悟がないとやっていけない道で、やめていく弟子もいます。それでも、グローバル化、高齢化が進むなか、後継者を育てなければ、先人達から受け継がれてきたこの文化がなくなってしまう、という危機感が募ります。

 10月末から始まる「第25回練馬区伝統工芸展」でも、生駒さんの作品に出会えます。日本の美しい伝統を、ぜひ足元である練馬から再発見してみませんか?

(2013年10月1日)

虫シリーズ。
子どもの頃から
虫好きだという生駒さん


「着物というキャンバスに
何を描くか」絵描きの感覚


作品の基となる構想図案


使いこまれた様々な筆。
きれいに整理されています


お弟子さんたち。
熱心に作業を続けます


イメージに合う生地を探す。
時には、生地からイメージを
膨らませることもあるそう


帯と着物の組み合わせを
提案することも


どんな質問にも気さくに
応えてくれる生駒さん


第25回 練馬区伝統工芸展
2013年10月25日〜27日

プロフィール

生駒  暉夫さん

生駒  暉夫さん

1954年、長野県佐久市生まれ。現・南田中在住。実家は建具屋。小さい頃から物づくりが好きで、余った木くずで何かを作って遊んでいた。中学・高校と剣道部に入るなど美術とは縁がなかったが、知人の紹介により、呉服会社の専属デザイン部に入社。友禅や水墨画を学ぶ一方で、武蔵野美術学園の夜間部にも通う。1984年、30歳で独立。1995年、41歳の時、日本伝統工芸の粋が集う「日本伝統工芸展」に初入選。その他、日本伝統工芸染織展、東京都染芸展など、様々な展覧会で入賞・受賞を果たす。(公社)日本工芸会正会員。毎年、日本橋三越で個展を開催。練馬で好きな場所は、石神井公園。春夏秋冬、様々な風景に出会い発見があるという。

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