特集記事 Reviews

#071 絵本作家
のぶみさん

描くのは、我が子を喜ばせるため
『もう1回読んで』が出版の条件


 漫画家だけでなく、絵本作家も多く暮らしている練馬区。なかでものぶみさんは、大泉在住を公言している注目の作家。絵本以外にも、あのEXILEとコラボ絵本を作ったりと、日々大忙し! 寝てる時以外は働いてるという熱意は、どこから来るのでしょうか?

「僕の絵本はすべて、7歳の息子かんたろう、3歳の娘アンちゃんを喜ばせるために描いてるんです。2人が読んで、『もう1回』と言わなかったら出版できない、という掟もあります。身近な人を喜ばせられないで、みんなを喜ばすことなんてできませんから。だからこれまでに1万作はボツになってますよ(笑)。才能じゃなくて、ただ描くのが好きなんです」

 絵本を描き始めたきっかけは、奥さんとの出会いでした。奥さんが絵本好きだと知り、「俺、絵本描いてるんだ」と大風呂敷。翌日までに描きあげて見せたそうです。すごい行動力!

 「今も妻に見せてますが、基本ホメてくれますね。僕も子どもを『お前は運がいい』『天才だ!』とよくホメます。けなされて伸びる子はいませんから」

 どんなに多忙でも、土日は必ず子どものためにあけるというよきパパでもあります。

「どんなにいい絵本を描いても、我が子と遊ばなかったら、インチキじゃないですか? 普段仲がいいからこそ、パパが描いたものを読みたくなるんです。ちなみにうちはケンカしないんですよ。なぜなら僕が、人を変えようと思わないから。人を変えたいと思う時は、自分を変えるべき時なんです」  

 言葉一つ一つに説得力と含蓄があり、惹き込まれてしまいます。コラボ作品が多いのも、人を惹き付ける魅力の結果かもしれません。

「いつも、目の前の相手のことを一生懸命考えながら話すんです。それを一人ずつ続けていると、自然と仲よくなっているんです」

 一人一人、真剣に向き合う。取材中も、真摯に語ってくれる姿勢が、とても印象的でした。



旅行しなくても、家の周りが幸せ
ハクビシンまでいる練馬はスゴイ!


「まあ昔は、悪いことばかりしてましたからね(笑)。今たくさんいいことをするぐらいで、やっとトントンなんですよ」

 というのぶみさんは、小学校でいじめにあい、中学校で引きこもり、高校で暴走族という壮絶な人生を送ってきました。だからこそ、子どもへの目線もおおらかです。

「人って、どこかで釣り合いをとってるんです。今悪さをしている子も、いつかそれ以上にいいことをするはず。だから、ちょっと悪いくらいは勘弁してあげてほしいなと(笑)。生きてさえいれば、みんなとんとんになるんですよ」

 また、東日本大震災ではいちはやく子どもへの支援を呼びかけ、今も被災地への活動を続けています。その子どもへの愛情は、今は世界に向かっています。

「アフリカのキベラというスラムに、TV取材で行ったんです。だっこすると腕が折れてしまう子どもがほとんどで、今日は元気なのに、翌日にはその中の3人は死んでいるのだと…。僕の絵本で日本中の子どもを喜ばせて、その資金で世界の子どもに手をさしのべられたら、いつ死んでもいいかなって思えたんですよ。『そんなヤツがいたんだー』って、子どもが面白がってくれたらいいですよね(笑)」

 そんな壮大な野望を抱くのぶみさんと、練馬との出会いは、9年前に遡ります。

「1冊目は売れたのに、その後7年、70冊目まで売れなくて。見返したい気持ちがあって、あえて家を買ったんですよ(苦笑)。そんな時、息子が『パパがうまく描けなくて、誰が困るの?』と一言…。困ってるのは自分だけなんだと気づいて、息子だけを喜ばせる絵本を描いたら、それが当たったんです。誰かのために描くと、自然と愛が入るんでしょうね」

 この先も、成功もあれば失敗もあると受け止めているのぶみさん。最後に、のぶみさんから見た、練馬のよさとは?

 「練馬はすごいですよ! 虫取りが趣味なのですが、近所の比丘尼公園では、コクワガタ、ルリボシカミキリなど、図鑑に載ってる珍しい虫をたくさん見かけます。それがどこから来たのか考えるのも楽しいです。ハクビシン(白鼻芯:タヌキに似た動物)を見かけたときは、さすがにビックリしましたけど!」

「わざわざ旅行しなくても、家の周りが楽しいって最高ですよね。家の周りが幸せって言える人が本当に幸せだと思うんです」


 生き物の話になると、少年のように目を輝かせて熱弁するのぶみさん。子どもの目線に還れば、見慣れた練馬の街で見落としていた何かが見つかるかもしれません!

(2012年9月3日)

年間10冊以上、累計130冊を
世に送り出している


作業はすべて手描きとのこと。
ライトテーブルを使う手法は
師匠のさくらももこさんに
教えてもらった


絵本や資料がぎっしりの本棚。
子どものおもちゃが混じって
いるのも微笑ましい


震災後のボランティア体験を
テーマにした自身の原作が
『週刊少年マガジン』で漫画化。
「はじめの一歩」で知られる
森川ジョージさんによるもの。
漫画の主人公にもなっています


被災地支援の一環で
生まれたキャラ
「ふくちゅー」のエコバッグ


背はスラリ&優しい顔立ちの
イケメン(!)作家さんです


アトリエの壁一面に、
出会った作家からの
サインが並ぶ


アトリエは自宅の一室。
たくさんの資料に、
壁には昆虫の標本や
図鑑のようなポスターも

プロフィール

のぶみさん

のぶみさん

1978年生まれ、品川区出身、大泉在住。1999年、21歳の若さでデビュー。代表作は『しんかんくん』シリーズ(あかね書房)、『ぼく、仮面ライダーになる!』シリーズ(講談社)など。NHKの教育番組「みいつけた!」の「おててえほん」のアニメや、「おかあさんといっしょ」で『おしりフリフリ』『ブラブラせいじん』などの作詞とアニメも手掛ける。『自分ルールでいこう!』(角川書店)、 『暴走族、絵本作家になる』(ワニプラス)では、いじめ、自殺未遂、引きこもり、暴走族という半生をつづっている。練馬で好きな場所は、近所の比丘尼公園。好物は、石神井公園のラーメン屋「肉汁やZERO」のカレーつけめん。大泉学園の「叙々苑」も好き。

絵本作家のぶみのオフィシャルホームページ
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