特集記事 Reviews

#070 小泉牧場 3代目
小泉 勝さん

嬉しいときには素直に喜んでいい
命の一滴から知る生きた体験


 大泉学園駅から歩くことたった10分。車通りも多い住宅街のなか、どこか懐かしい臭いと悠然とした光景を広げているのが、“23区唯一の牧場”の小泉牧場です。

 「23区唯一なんて余計なあだ名がついちゃってますけど(笑)。僕は後を継いだだけで、親父が頑張ったから残ってこられただけですよ」

 と屈託なく笑うのは、3代目の小泉勝さん。一本気な職人気質の2代目・與七さんとは打って変わり、お話上手で社交的。小泉牧場を地域に浸透させるべく、様々な取り組みに前向きです。「ねりまのねり歩き」大泉コースに参加したり、酪農体験で親子連れを受け入れたり、「ねりコレ」に自家製アイスを出品したりしています。

 「牛乳は工場に納品すると、各地域のものと混ぜて加工し、販売されます。でもアイスクリームなら、小泉牧場だけの牛乳で作れるんです。僕にとって牛乳は、朝から晩まで働いてできる“命の一滴”であり、“魂の一滴”ですから」

 アイスを作ったきっかけは、6年前にはじめた親子酪農体験でした。せっかくのつながりが一回で終わったらもったいないと、対面式の直売所を設置。そこから、アイスを通してひと声かけ合うふれあいが生まれました。牛と同じくらい、地域を大切にする姿勢が、勝さんの言葉の端々にあふれています。

 「酪農体験では、子どもたちに命の大切さやチームワークを学んでもらっています。飽食の時代ですが、牛乳は子牛が飲む分を私たちが分けてもらっていると理解してほしい。今の子どもたちは刺激に慣れているから、喜怒哀楽が少ない印象を受けます。嬉しいときは喜び、悔しいときは悔しがる、生の感動も体験してほしいですね」


 
「家族を守るために働きなさい」
スイスで学んだ、帰る場所の大切さ


 朝は6時から夜は10時半まで、休みは月に2回だけ。さぞかし酪農一筋の人生…かと思いきや、子どもの頃は牛が大嫌いだったそうです!

 「高校生まで、動物も虫も子どもも嫌い、我ながら嫌な野郎でした(笑)。牛舎も怖くて入れなかったんです。当時はバブルで就職先にも困らないし、警察官かツアーコンダクターになろうと思っていたんですが…。高校2年のとき、荒川の河川敷で餌用の草刈りを手伝っていたら、親父がふと『お前がサラリーマンになったら、税金も払えないなあ』とつぶやいて。現実的に、『自分しかいないんだ』と気づいたんです」

 そこで突如目覚めた勝さんは、農業系の大学へ入学。さらに、スイスへの酪農留学も果たしました。

 「技術は大学で学んだけど、そのまま実家に帰ったら、『なんでここまでしなきゃいけないの?』と、酪農が嫌いになりそうだったんです。スイスを選んだのは、国内だったらその気になれば帰れちゃうから(笑)。農業が好きになれたのは、ホストファミリーのおかげですね」

 「大きかったのは、“家族が一緒”ということでした。『家族を守るために働きなさい』というスイスの父の一言が、どーんと心の底に響いて。どんなに仕事がうまくいっても、帰る家がないと生きていけない。家族あっての自分なんだと。青臭い理想論ですけど、守るべきものがあるから頑張れるんだと、スイスの父から学びました」

 かくして、生きる教科書と出会った勝青年は、帰国後に小泉牧場で働き始めました。その後、結婚、長男誕生と順風満帆。しかし「この牧場をなんとかしなくては」という熱意と、仕事=男のステータスという思いから、365日休みなく働いていたそうです。

 「酪農ヘルパー制度に登録はしていたものの、利用したことがなかったんです。仲間から『化石みたいなやつだ』と言われ(笑)、3年前からヘルパーさんに頼み、月に2回休むようになりました。息子が『パパ、休んでくれてありがとう』って言ったときは、父親として情けないなと…。今は、家族でドライブしたり回転ずしに行ったり、些細なことにも幸せを感じますね」

 勝さんが小さい頃は、父親はひたすら働きづめ。外食、旅行なんかもっての他、キャッチボールをした思い出があるくらいでした。この時代の変化は、息子さんにも表れています。

 「長男は昔の僕より牛とふれあってるし、搾乳も上手。小3でもう私を越えてますよ(笑)」

 将来が楽しみですが、今後の展望は?

 「派手に手を広げたくないんです。謙虚に『ここで牛を飼わせてください』と思うだけですね。その意味で、地元のコミュニティを大事にしていきたい。『3代目、こんにちはー!』って気軽に声をかけてもらえる、人と人とのコミュニティをつくっていけたらいいですね」

(2012年8月1日)


「ねりまのねり歩き」の様子
(2012年3月)
区民ガイドの横で説明している
2代目の與七さん


「ねりまのねり歩き」のとき、
こんなかわいい子牛がいました


平成23年度版の
「ねりコレ」パンフ。
平成24年度版は
10月中旬より配布予定


大泉小学校の先生の勧めで、
「ねりコレ」に応募しました。
しぼりたてミルク味の
アイスクリームが一番人気!


牧場と道路を隔てた向いの建物で
アイスクリームを販売しています


サイロは牧場のランドマーク。
乳牛の飼料が入っています


平成15年に
酪農教育ファームに加入。
2年前からは講習を受け、
仲間と共に
教え方の勉強にも励んでいる


牛舎の向こうには
高層のマンションが見える


笑顔でユーモアたっぷりの勝さん。
家族、仕事、地域を大切にする
アツい語りに引き込まれました!

プロフィール

小泉 勝さん

小泉 勝さん

1970年生まれ、昭和10年創業の小泉牧場2代目・與七さんの長男として生まれる。高校卒業後、八ヶ岳中央農業実践大学校に入学。卒業後はスイスへ酪農留学し、1992年より小泉牧場で働き始める。現在は45頭の牛を、2人の従業員とともに励んでいる。フェイスブックなど最先端のツールも活用中。

小泉牧場/大泉学園町2-1-24
フェイスブック

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