特集記事 Reviews

#043 「組紐工房佐々木」代表
佐々木良子さん

二度と同じ色はできない
自然の色のおもしろさ


 風薫る5月は、練馬区の花であるつつじが満開の季節。約600種類、16,000株ものつつじが植えられた「平成つつじ公園」も、見ごろを迎えます。やがて花が終わると、剪定の時期。切られて不要となったつつじの枝を利用して、作品を発表しているという佐々木良子さんの組紐(くみひも)工房にお邪魔しました。

 「平成つつじ公園は、とてもきれいな所ですね。剪定された枝は、絹糸を染色するのに使っています。枝を干した後、煮出して、焙煎液を加えて染めるんですが、鉄、鉛、ミョウバンなど、焙煎液を何にするかで色のバリエーションが出ます。この作業は実は、主人の仕事なんです(笑)。自然の草木は、とても微妙でおもしろい色合いになります。しかも、同じ色は二度と作れないんです」

 染色した糸で作った組紐を、しおり、ブックカバーなどに加工します。それが、「ねりコレ」にも選ばれている「組紐 つつじ・こぶし草木染シリーズ」。主に着物の帯締めとして使われる組紐で、多彩な小物を作り出すのが佐々木さんの特色です。作品は多岐にわたり、ネックレス、キーホルダー、ストラップ、メガネ紐、さらには愛犬のリードまで!

 しかし組紐作りは手間のかかる作業で、3メートルの糸を組むのに4~5日、加工まであわせると1週間はかかると言います。それでも手作りの良さを活かし、様々なオーダーに応じています。

 「蔵にしまわれていた古い甲冑の組紐の復元を頼まれ、数か月間取り組んだこともありました。構造を1つ1つ調べ、図面に柄を起こしました。柄が再現できないと、どこが違うのか考えながら、また組み直して…の繰り返し。製作者がもういないので、誰にも聞けませんからね(笑)」



職人への道を後押しした
夫の理解ある一言


 佐々木さんがそんな手間のかかる組紐作りを始めたのには、あるきっかけがありました。

 「組紐との出会いは、“ある日突然”でした。もともと洋服の仕立てをしていたのですが、体をこわして入院してしまい、仕事場に通えなくなってしまったんです。その時、本を読んでいて、目に飛び込んできたのが組紐でした。それでふと『始めてみよう』と思い立って。その時、主人が『やるなら、最後までやってください』と言ってくれたのが、後押しになりました。主人の理解とこの一言がなかったら、続けてこられなかったと思います。まあ、どこが“最後”かは、わかりませんけどね(笑)」

 こうして、終わりの見えない…というより、終わりなどない職人の修行の道に飛び込んだ佐々木さん。お子さんが小学校を卒業した、30代後半のことでした。

 「大先生と先生がおられる教室に、週に1回通っていました。自由にやらせていただいて、厳しくはなかったですね。その時私が大事にしていたのは、『普通の人が1つやることを、2つやれ』という教訓。これは私の母の教えで、仕立て屋時代から守っていたことでした。習ったことを、家に帰って自分でもう1回やってみる。とにかく数をこなす。そうすることで、次に通った時、わからない部分を聞くことができるんです」

 1のところを2やる…組紐に限らず、日々の生活においても見習いたい教訓です。さらにそこでは、仕立て屋時代の経験も役に立ったと言います。

 「仕立ての経験があるおかげで、手縫いやミシンを使って、自分で仕上げることができるんです。今では、何を見ても『これはバッグにつけたらどうだろう?』などと、組紐を作る目で見てしまいます。そうやって、いろいろ発想できるのが楽しいですね。考えてみれば私は、昔からそうでした。何か教わると、つい『何かに応用できるのでは』と考えてしまうんです。修行時代には先生から、『あなたは何を教えても素直にやらないのね』と言われたこともあるくらいです(笑)」

 学んだことを、ただそのまま鵜呑みにするのではなく、何にどう活かすか考える。その発想力こそが、佐々木さんの“職人技”を支えています。

(2010年4月1日更新)


「練馬つつじ祭り」当日の
平成つつじ公園
(2009年4月29日)
佐々木さんは剪定後の捨てる枝を
もらい受けて、染色に使用している


右側の4束が
つつじの枝で染めた絹糸。
ご主人が染色を担当している。
「思いがけない色が出たり、
理想の色が出たりすると、
とてもうれしいです」


ねりコレに認定されている
組紐 つつじ・こぶし
草木染シリーズ
」。
しおり、カードケース、ブックカバー


「高台」と呼ばれる台。
和菓子の名店・とらやの
注文を受けた際、
自分が使いやすいように大工さんに
作り直してもらった。
この大きな高台でも、
ハガキ位の幅が限界!


何本もの絹糸を束にして、
1つの糸巻きに。
絹糸の本数と糸巻きの数で、
組紐の太さ(幅)が変わる


地内記組と呼ばれる専用の図面。
どういう柄にするかは、
前もって図面に起こしておく。


古来、仏教と共に
中国から伝来した組紐。
兜を結ぶ紐など、
古くから使われてきた


機械組みとの違いを
わかってもらえるよう、
作品には必ずひと手間かける。
紐の固さに加減がつけられるのも、
手作りだからこそ


「同じものを延々と作るより、
色々なものを作っていくほうが
性に合う」
と語る佐々木さん。
1つ1つに集中したいという姿勢に、
職人魂を感じます

プロフィール

佐々木良子さん

佐々木良子さん

宮城県生まれ。結婚後、夫の実家がある練馬区へ移る。昭和63年、稗田師事のもとで修行を開始。平成11年に独立、富士見台駅近くに「組紐工房佐々木」をかまえる。平成12年、練馬区伝統工芸会に所属。流派は特になく、しいて言うなら「私流、佐々木流」だという。現在はお客様からのオーダーに応じたり、展示会に出品したりなどしている。練馬区でお気に入りの場所は石神井公園。「桜の季節になると、風呂敷を広げておきたくなる。花見より、散った花びらで染めたらどんな色が出るのかが気になっちゃって…」出歩くよりも、工房にいて仕事をしていたいと言うところが、正真正銘の職人気質!

組紐工房
練馬区貫井3-11-6 寿荘101
TEL&FAX 03-5936-9616
http://www.kumihimo.net/

ねりま人一覧