まずはお仕事拝⾒!練⾺で⼿がけた作品から、アニメ制作のお仕事を知る
▲事業本部 アーカイブ班 班長・アニメーターの平松さん
今回は「【推しの⼦】」「ちいかわ」など、今話題の作品を数多く⼿がける動画⼯房さんの本社(豊玉北2)にお邪魔しました!
過去には「ねりたん王国」という名の練馬区をテーマにしたキャラクターが出てくるアニメのキャラクターデザイン、ショートムービーの作画監督も⼿がけていただきました。
数々の貴重な資料とともに、アニメの魅⼒について、クリエイターの平松さんにお話しをうかがいます。
――こんにちは!練馬区のイベントで誕⽣した「ねりたん王国」ですが、企画から実際のキャラクターになるまでどのくらいの期間がかかったのでしょうか?
平松「正確には覚えていないのですが、1年くらいだったと思います。キャラクターの原案は私が絵を担当したハクション⼤魔王のアクビちゃんの絵本「アクビちゃん ゆめであそびましょ!」の文章を担当した脚本家の福島直浩さんや当時のイベントプロデューサーの三脇新社の渡辺浩光さんから、としまえんに住んでいるお姫様が練⾺で⼤活躍するキャラクターを作ろう!とご依頼を頂いたのが担当したきっかけです。」
▲平松さんが作画した練⾺区のオリジナル作品「ねりたん王国」のキービジュアル原画と完成イメージ
平松「イメージは戴冠式で、当時、この作品が使われたイベント「練馬アニメカーニバル2010」が開催されていた、としまえんにある古城の塔を舞台にした、『イズミ姫が⼥王に即位する』というストーリーのポスターですね。姫の従者は文房具がモチーフで、爺やの「シャクジイ」(万年筆)、姫を守るナイトたちが「ミナミタナカ」(消しゴム)、「ハヤミヤ」(定規)、お姫様が⼤泉学園から名を取った「イズミ」姫、とキャラクターが練⾺の地名になっています。窓の奥にいる敵キャラは「リテイク」(アニメ用語で「やり直し」)という姫の活躍を邪魔する海賊です。地名とキャラクターの⾒た⽬は直接リンクしていないのですが、福島さんと渡辺さん達が練⾺をモチーフにしたキャラクターにして、地域⾊をだそう!とお話があり絵をゼロから創りあげていきました。」
――(イベントで上映されたショートムービーを観て)おお!定規(ハヤミヤ)で消しゴム(ミナミタナカ)を⾶ばしているんですね。⾯⽩いです。
平松「これは悪ふざけしているのではなく、振り⼦の構造はアニメーションにおける定番の動きの一つなんです。他にもアニメの基本の動きである“歩き・⾛り・奥から手前へ迫る・振り向き”を採用しました。これも渡辺さん達と相談してアニメの街 練⾺ならではの表現を追求してムービーを作りました。」
――⾊々考えられているプロの仕事ですね。おっと、また別の資料が出てきました。これはねり丸ですか?随分と表情が豊かですね。
▲アニメ授業で使った平松さんが描いたねり丸の落書き。表情が⾯⽩いですね!
▲アニメ授業のチラシと練⾺区の学校で実際に使われる社会の教科書。アニメの内容があるのは珍しいですね。
教科書の表紙の上には平松さんの写真が使われています!
平松「こちらは⼩学校のアニメ授業やイベントで実際に私が作画したパラパラアニメ(絵を 2 枚描くだけでも、キャラクターが動いて⾒える⼿法)のイラストです。その場の勢いでかなり誇張して表現しています。太眉⽑にすることで、表情を強調でき、ねり丸の動きと感情を⽣徒の皆さんにより伝わりやすくするようにアドリブで作画しました。普段、眉⽑のないねり丸に急に太眉が描かれたので、⽣徒の皆さんと先⽣方にも⼤ウケでした(笑)
かつてはふるさと⽂化館でも作画体験のイベントを⾏ったり、今年の8月には練馬区主催の観光ツアーでも講師を務めました。
大体45分授業のパッケージで、私の他にも講師ができるアニメーターが 4~5名います。こんな活動もかれこれ16年やらせてもらっています。早宮⼩学校などでは、10年以上前からほぼ毎年学校に出向いて、5年⽣の生徒さんが6年⽣の卒業⽣を送る時にアニメを作る、という授業も 6~7年くらい前から行っているようです。1年⽣も同じ会場でそれを⾒ていますので、⾃分たちも 5年⽣になったらアニメを作るんだな!と思っているようですよ。」
※平松さんらが⾏うアニメ授業の⽣徒作品のサンプルは練⾺アニメーションサイトをチェック!
https://animation-nerima.jp/nerima-and-animation/jigyou/cooperation/
▲ポスターにもアニメの技が光る?!
――このポスターですが、完成ポスターではねり丸を囲って紙が舞っているのに、ラフでは1枚1枚バラバラに描かれているのは何故ですか?
平松「これは、同じ1枚に描いてしまうと、紙と紙が重なっている場所に動きの加⼯をする時、下の紙も⼀緒にその加⼯がついてしまうんです。よりリアルな躍動感を出すために、少し⼿間をかけて、1枚1枚紙を別に描き、それぞれを微妙に加⼯することで、⾃然な奥⾏き・質感・⽴体感を出しています。この仕事だけでなく、コンセプトによって表現⽅法を考えて、絵を描く部署だけでなく、⾊を塗る「仕上げ」で同じキャラクターでも場⾯によって⾊を変化させたり、こういった特殊加⼯を⾏う「撮影」という様々な部署とも連携し、最適な表現を⽇々試⾏錯誤しながら創り出しています。」
平松「当社が⼿がける「【推しの⼦】」はキャラクターの魅⼒や動きとともにキラキラした画⾯や⽬も特徴的な作品ですが、撮影の部署が、⼿描きで作り、色を塗ったキラキラを増幅させる作業をしています。先ほどの「ねりたん王国」のポスターでも、イズミが持っている魔法の杖なのですが、カラフルな七⾊に塗られてキラキラしている所にさらに加⼯をしています。撮影部署が⼿がけるとここまで印象が変わるんだよ、という加⼯前後の素材も印刷して資料として残しアニメ授業でも、アニメのお仕事説明の時に使用しています。今はスマホのアプリでも肌や⽬を綺麗にしたり⾊味を変えたりすることが簡単にできるのでイメージしやすいですかね。」
――⾒る⼈が⾒るとわかる、とても細かいこだわりが、アニメ制作には詰まっているんですね。
▲“光”の演出が加わったポスター/イズミ姫と従者のハヤミヤ(定規がモチーフ)
平松「そういった細かいこだわりの処理が増えれば増えるほど、演算に時間がかかるので、ソフトの処理能⼒と PCのスペックとクリエイターの技術の三つ巴で作られているのが現代のアニメ制作現場です。昨今、機械の能⼒が⾶躍的に向上していますので、やろうと思えばどこまででもこだわれます。それがクリエイターの作業量に直結するので、その意味ではしんどさや表現の追求の楽しさは昔から変わっていないかもしれないですね。」
▲長年アニメ業界で様々な仕事をこなしている方の⾔葉は説得⼒があります
――素⼈考えでは、技術の発展で今までよりも作業が楽になっている感じがしますが、逆にこだわれる余⽩が多くあるために、クリエイターの⼒がどこまでも出しきれてしまうんですね。。。⾒ている側は楽しいですけど、これはイタチごっこですね。
平松「素晴らしい作品ができるとそれが前例となり、⽬指すべき完成形のレベルがどんどん上がっていっているのは確かです。⼀⽅で我々作品創りをしている者の思いとしては、変わらずいいものを作りたい!より楽しんで貰えるものを作りたい!という想いもありますから、頑張った作品が世間的に評価されると、とても嬉しいです。数あるアニメの会社や監督、クリエイターの皆さまも、それぞれ得意分野があり、それぞれが⾮常に凝った⾒せ⽅をされているので、そういう⽐較をしながら、⾃分の好みの作品を⾒つけていくのも楽しいかもしれませんね。」
平松「業界も⼤きく変わってきていて、絵が描ける監督さんは、イラストを描く事で、現場と完成イメージを共有するコミュニケーションをより円滑に進められます。そして、今はAIが出てきましたね。極端な話、著作権をきちんと守りつつ、作りたいアニメ作品を絵が描けない方でも作ることができます。また例えば難病で体が動かなくても⽬だけでソフトを動かす機器があります。ですので『アニメを作る・描く』ことのハードルはものすごく下がっていて、誰でも名監督になれる可能性のある時代になってきたと個人的には感じています。」
アニメ業界の最前線!技術とアニメーターの戦い?!
――AIなどの機械や技術、環境が⽬まぐるしく変わる中で、アニメーターさんの役割や⼒量は、どのようなものが重要になってくるのでしょうか?
平松「昔も今もこれからも、画⾯の中で、まるで⽣きているかのように⽣活しているキャラクター達を描いていく事が重要であると私は思っています。
その中の一つでAIのお話をするとしたら、動画⼯房はAIを使っていないので、会社の意⾒ではなく、平松の個人的な考えですが、著作権をしっかり守りAIが作ったものを、正しく評価できる視点でしょうか。アニメ業界全体でも人⼿は不足していますから、作業を効率化させるために、もしも、AIを使うとしたら、正しく取り扱い、⾃⾝に足りない部分のサポートをしてくれるように使っていくのが、⼤事になるのではないかと感じています。
⽇々、忙しく仕事をしていると、しっかりとした創作の考えを保ち作品を作っていく事が難しくなる場合もあるかもしれませんが、⾃分の表現する事の強みと弱みを認識して、⽇々鍛錬を怠らず、⼦供の頃などに感じた、業界に入りたいと想った「創作したい」という気持ちを忘れず、信念を持ち続ける事が⼤事なのではないかと感じています。」
――アニメが放映されるまでの全体⼯程を、改めて教えていただけますか?
平松「⼤まかには脚本→絵コンテ(作品の流れが分かる設計図)→レイアウト(完成がイメージできる画⾯の設計図)→原画・動画→仕上げ→撮影→アフレコ→編集→納品、の⼯程で完成します。例えば「ねりたん王国」で説明しますと、ショートムービーしか映像制作をしなかったので、脚本はあらすじになります。
【王様・女王様が亡くなって、若くして王位を継いだイズミ姫が練⾺区の様々な場所で⼤冒険する】みたいな感じです。映像の設計図が絵コンテになります。キャラクターの動きや場⾯の転換などを絵と文字を書いて設計します。ちなみに今は、⼿描きや絵コンテ制作ソフトなどの専⽤ソフトを半々で使って作成しています。有名どころでは新海誠監督も絵コンテ制作ソフトを使って、映画の設計図を作成してるようです。」
▲授業さながらに実演や動画を交えて丁寧に解説してくださいました。
積極的に⾏う、未来のアニメーター育成
――出張授業や区内でのアニメ授業など、後進の育成に⼒を⼊れている印象がありますが、それは会社の⽅針なのでしょうか?それとも平松さん個⼈の思いがあるのでしょうか。
平松「もともとは会社の⽅針として16年前にアニメの授業を始めましたが、学校に出向くと、未来のクリエイターの卵たちがキラキラした⽬で楽しんで話を聞いて、絵を描いてくれるんです。私もそうですが、イベントや授業を繰り返す中で、⼈材の育成に魅⼒を感じるアニメーターの方が多いと思います。先代社⻑が地⽅にアニメスタジオを作りたい!と考えていて、私も⼀緒に全国の学校を回る中で生徒さんたちの様々な作品にアドバイスをさせていただきました。動画⼯房に⾒学に来る(※取材時点、見学の受け入れは休止しています)⽣徒さんたちともやり取りをする中で、次世代へバトンをつなぐ、という仕事に興味を持ちました。
そんな時、恵⽐寿にあるアニメ専⾨学校から『講師をしてほしい』という依頼がありまして。生徒さんの悩み相談から、授業内容で分からなかった事などの技術的なサポートまで⾏っていました。」
平松「さらに、⾃社でアニメーター育成のための教材「アニメータードリル」を作りました。かつて練⾺で活動をしていたアニメ会社の業界団体「 一般社団法人 練⾺アニメーション 」 のメンバーであり、私の師匠の1人でもある、「有限会社メビウス・トーン」代表のアニメーション作家 遊佐かずしげ(https://www.nerimakanko.jp/review/nerimabito/038.php)さんに課題を考えて頂き、授業を1つのパッケージとして完成させました。動画⼯房の作画部長やアニメーターも課題の監修をし、E ラーニングの映像を作ったんです。84の課題に分かれており、毎⽇1課題をこなしていき、新人アニメーターに必要なアニメーションの動画技術を順番に学べていける教材です。」
平松「例えば教材でもクリンナップという手法について説明しています。「動画」担当者の作業なのですが、要するに絵を綺麗にする作業です。究極的には、「原画」担当者が綺麗に線を描けば、クリンナップを⾏う「動画」担当は要らないのですが、それを「原画」担当がやるよりは、画面の設計や⽣き⽣きとした動きのキーポイントを作画する表現に注⼒すべきだ、というのがここ60~70年のアニメ業界の考えとなり、分業しています。「動画」担当は線を綺麗にし、中割りという絵と絵の間を増やし、よりなめらかにキャラクターが動くように作画をし、「仕上げ」と呼ばれる彩⾊担当が⾊を塗れるように、次のセクションが作業できるように作り上げて素材を渡していきます」
▲クリンナップした前後の絵。多くの書き込みのある「原画」(奥)から無駄のないシャープな線になっている「動画」(⼿前)
平松「アニメーターは役者の要素もあって、多くの場合、実際にそのアクションをしてみて動きの秒数を測ります。⾃然な振り向きにはだいたい何秒かかるのかを考えます。当然、能のように意図的にゆっくり動いたり、ギャグアニメのようにスピーディーな動きの場合は、作画する枚数が増減するわけです。
アニメーターはその場⾯、そのキャラクターにあった動きを考えて、全ての場⾯で作画の内容をコントロールするわけです。およそですが、最近の30分アニメ1本で平均約3,000~約7,000枚ほどの絵が作られており、1作品で300から400⼈のスタッフが関わると⾔われています。」
▲こちらはタイムシート。各セクションの担当者が、その場⾯はどのように動くのかを情報共有するためのアニメの設計図の1つである。
――アニメを⼀視聴者として観た時、職業病ではないですが、『どうしてもココを観てしまう』など、こだわりの観かたなどはあるのでしょうか?
平松「そうですね。よく⽬が⾏ってしまうのは、動きの表現部分ですかね。髪の⽑や服がフワってなるじゃないですか。あの部分です。とある作品なのですが、学⽣が主⼈公だと制服を着ていますよね?⾜元は⾰靴の硬いローファーです。ダンスをするシーンでジャンプして、躍動感のある⾜元がアップで映った時、誇張表現でローファーの⽪がぷるんと少し揺れたり、光の照り返しが大きめに動いたりしている場面がありました。厳密に⾔えば実際の靴でも同じことは起きているのでしょうが、そこまで極端なのはアニメーション独⾃のものです。でもそうすることで、柔らかい雰囲気とかキャラクターの性格や可愛らしさ、世界観をより印象的に作ることができます。キャラクターそのもの以外の、そういう細かなところにまで“命を宿す演出をする”点も気になって、何度も繰り返し観て、スロー再⽣をし動きの分析をしてしまいますね。」
――なるほど〜〜!それは気づきませんでした。動画⼯房さんも⽇常をテーマにした作品を多く作ってらっしゃいますが、得意とする分野(ジャンル)のようなものはあるのでしょうか?
平松「なんでもやるのが特徴でしょうか?「【推しの⼦】」を描き、ちいかわを描き、⼑剣乱舞を描き、⽇常作品などなどを描いています。初代社長の時から、ジャンルにこだわらず⾊々なものに挑戦しよう!という考えで制作させて頂いているかと思います。
「ちいかわ」でも、原作の可愛らしさを120%再現しよう!という気持ちで作っています。こだわっている所の1つはぷにっとした柔らかさの表現ですね。アニメーションで動く時に、もちもちした感じ、例えばちいかわたちが⾛ると体がポヨンポヨンと揺れるとか。びっくりした時、ほんの⼀瞬、わずかに顔が横に伸びるとか。キャラクターが可愛くディフォルメされて創られていますので、⽬の位置や線のわずかな⾓度で全く印象が変わってしまいます。その部分でも、原作の良さを壊さず、よりよい表現にしていくよう、他の作品とともにスタッフ一同⽇々精進して制作しています。」
▲朝の時間帯でアニメ放映をしているので、⼤人の方、お⼦さんやその家族など、沢山の方々にこれからも楽しんで観ていただきたいとのこと。
©ナガノ / ちいかわ製作委員会
――そういったこだわりや懐の深さが、『動画⼯房さんにお願いしたらいいものにしてくれる』と、ご依頼につながっているのかもしれませんね。
平松「今後も可能な限り頑張って、その時に集まったスタッフ全員で全⼒を出して対応していきたいと思います。後進の指導でもそうですが、やはりクリエイターにどれだけ引き出しがあるか?がとても重要だと思います。クリエイターを目指す方々へ、私たちプロも失敗を恐れずにチャレンジして、創作を志す皆さまにも、⾃分の好きなこだわりポイントも⾒つけて欲しいです。弊社の先輩アニメーターから教わったのですが、そのこだわりは、なぜ⾃分の心を動かしたのかを、⾔語化して他人にも説明できるように伝えられるようにできると良いと思います。そうする事で、⾃分で絵を描く時や演出する時に、その心動かされた具体的な感動を基礎にして、まだ誰も観た事がない作品イメージを、絵や映像で表現できる⼒を得る事ができると思います。なので、好きなジャンルや、⾃分は興味のなかったジャンルなど様々なインプットとアウトプットをこれからもどんどん⾏って欲しいですね。」
▲動画⼯房の資料室兼打ち合わせスペース。インプットのための関連書籍がぎっしり
▲社内には娯楽室も。初代社⻑からの「より良い作品を作り続け、世界を少しでも楽しいものにする。」の精神は今も受け継がれ、ここで様々な社内イベントが開かれている。
――――平松さん達がアニメ授業を始めて16年。そろそろ平松さんが教えた学⽣がこの業界に⼊ってくるタイミングで、その可能性があるかも?!と嬉しそうに話されていました。
次の世代にこの情熱とこだわりが継承されて、できれば今後も練⾺区が映像・アニメ⽂化の⼀翼を担う存在であってほしいと感じた取材でした。
<株式会社動画工房公式HP>
https://www.dogakobo.com/
<アニメちいかわ公式サイト>
フジテレビ系列 「めざましテレビ」内にて毎週火・金 7:40ごろ放送中(取材時)
https://www.anime-chiikawa.jp/